殺虫剤
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殺虫剤(さっちゅうざい Pesticide)は、人間や農作物にとって有害な害虫(昆虫を含む動物)を殺す(駆除する)ために使用される薬剤。広義には殺ダニ剤(Acaricide, Miticide)や殺線虫剤(Nematicide)も含める。殺虫剤には殺卵剤、殺幼虫剤、殺蛹剤、殺成虫剤があり、最も多く使用されるのは殺幼虫剤と殺成虫剤である。
アブラムシや毛虫など農作物の害虫に対して用いるものは農薬の一種とされ、ハエ、カ、ゴキブリなどの衛生害虫を除するものは防疫用殺虫剤と呼ぶ。農薬は農林水産省、防疫用殺虫剤は厚生労働省の管轄である。農業関係以外では殺虫剤と呼ぶ場合、後者の防疫用殺虫剤を指すことがほとんどである。
農業用殺虫剤は、主に系統と呼ばれる農協か商系と呼ばれるそれ以外のルートで販売される。一部はホームセンターで入手することもできる。 ハエ、カ、ゴキブリなどを駆除する防疫用殺虫剤は、缶に入ったエアゾールや、蚊取線香などとして広く市販されているものは家庭用で、防除業者向けにもっと強力なものも市販されている。
毒性が高く取り扱いが難しいものについて、購入時に印鑑が必要であるのは、農業用も防疫用も一緒である。
目次
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剤型
殺虫剤は、原体(有効成分)のまま使用されることはほとんど無く、補助剤・希釈剤と混合され効力を調整されて使用される。
液状
- 油剤 : 原体を白灯油に溶解したもの。変質・分解が少ない。引火性がある。
- 乳剤 : 原体を有機溶媒に高濃度で溶かし乳化剤を加えたもの。水で希釈して使用する。対象などにより濃度を調整して使用することが可能。
- 懸濁剤 : 水に不溶性の原体を湿式微粉砕し、湿潤剤・分散剤・凍結防止剤などの補助剤を加え、水に分散させたもの。有機溶媒による害がない。長期保存で沈殿や結晶の成長が起こる場合がある。
- エマルジョン剤 : 原体に乳化剤・凍結防止剤・増粘剤など補助剤を加えて、水中にエマルジョンとして分散させたもの。有機溶媒による害がない。
- マイクロカプセル剤 : マイクロカプセル(高分子薄膜で覆った粒径数~数百マイクロメートルの微粒子)に原体を封入し水に懸濁させたもの。高分子薄膜の厚さの調整で有効成分の放出速度の調整が可能。
固体状
- 粉剤 : 原体を鉱物性粉末と混合したもの。
- 顆粒剤 : 原体を鉱物性粉末と混合し造粒したもの、または顆粒状の芯材に有効成分を吸着・含浸させたもの。微粉の飛散が少ない。
- 水和剤 : 原体を4~5マイクロメートルに微粉砕し、界面活性剤と増量剤などの補助剤と混合したもの。水に希釈・懸濁して使用する。
- 顆粒水和剤 : 水和剤を粒状にしたもの。微粉の飛散が少なく安全性が高い。
- 食毒剤(ベイト剤): 食料に原体を混合して生物に食べさせるもの 。毒餌。
気体を蒸散
- 蒸散剤 : 蒸気圧の高い原体を固体に吸着させたもの、または蒸気圧の高い原体の固体を高分子フィルムで覆って拡散速度を調整したもの。
- 燻煙剤 : 発熱剤・助煙剤を燃焼させる、もしくは水による化学反応などの外部熱源を使用して有効成分を拡散させるもの。
殺虫剤の効力
殺虫剤の効力の評価法には次のようなものがある。
- 中央致死薬量(median lethal dose, LD50) : 生物の半数が致死する有効成分の量。μgで表す場合が多い。
- 中央致死濃度(median lethal concentration, LC50) : 生物の半数が致死する有効成分の濃度。mg/lで表す場合が多い。
- 中央ノックダウン時間(median knock-down time, KT50) : 生物の半数が仰天するに要する時間。薬剤の即効性の指標。致死ではないので蘇生する場合もある。
歴史
毒キノコ、タバコ(ニコチンの殺虫効果)やハエドクソウ(植物)などの天然物は古くからウジ殺しなどに用いられた。その中で除虫菊は人畜に対する毒性が低いので19世紀から盛んに製造され、日本にも明治時代に導入されて蚊取り線香やのみ取り粉として用いられた。
1930年代になると有機塩素系殺虫剤(DDTなど)や有機リン剤が開発され、第二次世界大戦後本格的に使われるようになった。しかし有機塩素系は自然界で分解しにくく動物やヒトの体内に蓄積するため、1960年代から有害性が問題にされ(「沈黙の春」)、その後多くの国で製造販売が禁止され、あるいは生産が中止された。有機リン剤についても毒性の高いものが多かったため、なるべく毒性の低いものを求めて開発が進められた。
その後、有機リン剤と同様の作用(神経のアセチルコリンエステラーゼ阻害)をもつカーバメート系、除虫菊成分を基本にした毒性の低いピレスロイド(家庭用などに多く使われる)や、ニコチンを基本にしつつ、ニコチンの人間に対する毒性を低下させた効力の高いネオニコチノイド剤などが開発された。
有効成分による分類と作用機序
- 有機塩素剤(DDT、BHC等、1970年代までに日本ではほとんど禁止)
- DDTは、神経軸索のNa+チャンネルに作用し、神経系の情報伝達を阻害する。毒性が強く、生物濃縮が起こる。
- 有機リン剤(パラチオン、マラソン、フェニトロチオン等)
- 有機リン剤は、神経系の伝達物質アセチルコリンの分解酵素であるアセチルコリンエステラーゼ(AChE)と結合して、その働きを不可逆的に阻害する。このためアセチルコリンが異常に集積したままになり、情報伝達が阻害される(通常、アセチルコリンは情報伝達を行なった後、AChEにより分解される)。
- カーバメイト剤(カルバリル、プロポクサー、フェノブカーブ等)
- 有機リン剤と同様。但し、アセチルコリンエステラーゼ阻害は可逆的である。残効性は高い。
- ピレスロイド剤(ピレトリン、ペルメトリン、エトフェンプロックス等)
- ピレスロイド剤は、神経軸索のNa+チャンネルに作用し、神経系の情報伝達を阻害する。残効性は非常に低い。
- ニコチン剤(硫酸ニコチン)
- 硫酸ニコチンの記事を参照。
- クロロニコチニル剤(ネオニコチノイド剤)(イミドクロプリド、アセタミプリド、ジノテフラン等)
- クロロニコチニル剤は、神経系の伝達物質アセチルコリンの受容体に、アセチルコリンの代わりに結合する。これによりアセチルコリンによる情報伝達を阻害する。
殺虫剤の問題
- 同じ作用点の殺虫剤を連用すると害虫が抵抗性を獲得することがある。(害虫の場合は耐性とは言わない、殺菌剤に対する病原菌の場合は耐性と抵抗性の両方を用い、かつ意味が違うので注意)
- 駆除する目的の生物だけでなくその他の益虫なども殺してしまうことがあるため、生態系に与える影響や経済的損失(カイコ、ミツバチ)に注意が必要である。場合によっては害虫より天敵のほうが死んでしまい却って害虫が増えることもある(リサージェンス)。
- 殺虫剤の多くでは、昆虫などの生理機能によく反応する反面、哺乳類などには影響が少ない物質が選択される傾向が強い。とはいえ人や家畜にまったく影響がない訳でもない物質も多い。家庭用殺虫剤では特に安全性の高い物質が利用されるため、余程過剰に使用しない限りは問題がないが、農業や林業で用いられる殺虫剤は高濃度で保管され、必要に応じて希釈される。この際原液に誤って触れたり、または散布直後に触れるなどして中毒を起こす事故もしばしば発生している。農業・林業関係者や防除業者が使用する薬剤に、長い時間触れる事で中毒する事故も後を絶たない。家庭内にある製品でも誤飲などの事故がおこりうるが、故殺目的で乱用されたケースも少なくない。
- エアロゾル式の家庭用殺虫剤は広義の石油製品で可燃性もあるため、火に向かって噴射すると炎上する危険性がある。またガス漏れ警報機などが誤動作する場合がある。その一方で蒸散式殺虫剤は薬剤が白煙となって立ち上るため、火災報知器が誤作動するほか、火災と誤解される事がある。年数件程度は、この殺虫剤による誤報の話がローカルニュースなどで聞かれる。
関連項目
- 殺虫剤の一覧
- バルサン
- 殺鼠剤
- 農薬取締法
- 毒物及び劇物取締法
- 化学的防除
- 防除
- 虫嫌い
- 防蟻剤
- 忌避剤
その他
- 各殺虫剤メーカーは年に一度実験に使った虫たちの供養を行っている(トリビアの泉で紹介された。)
参考文献
- 伊藤勝昭、伊藤茂男、尾崎博、唐木英明、小森成一、下田実編集 『新獣医薬理学第二版』 近代出版 2004年 195~200頁 ISBN 4874021018
外部リンク
殺虫剤全般
- 登録農薬一覧(殺虫剤・殺虫植調剤)
- 殺虫剤の裏事情
- 殺虫剤の種類と特徴(環境機器株式会社)
- 殺虫インデックス
- 害虫駆除ドットコム
主要メーカー
- アース製薬
- 大日本除虫菊
- フマキラー
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